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反トランスジェンダー大統領令解題①:全体的な認識枠組み

  
 2025年1月20日、米国大統領令に就任したトランプは初日から数多くの大統領令に署名をしました。この「大統領令」は、連邦政府や軍を対象として、議会を通さずに下せる行政命令であり、法的な拘束力をもちます。すでに存在する法律に違反する命令を下すことはできず、そうした大統領令にはすぐさま訴訟が提起されるのですが、近年ではそのときどきの大統領が自らの「カラー」を示すための迅速な手段として、よく用いられています。
 そして、日本のニュース等で知った人も多いかと思いますが、トランプ大統領が初日に署名した大統領令のなかには、トランスジェンダーの存在そのものを否定する危険なものが含まれていました。

www.whitehouse.gov


これについては、アメリカの多くの人権組織からすでに懸念が示されており、日本の当事者団体である「Tネット」からも、懸念と憂慮、抗議を示す声明が出されています。

tnet-japan.com

 ただ、この大統領令については日本でその内容が正確に理解されていないと感じています。とくに、就任演説のさいの「性別は2つだけ」といった言葉と関連させて紹介されることも多いのですが、この大統領令の内容と危険性は、そうした範囲をはるかに超えています。
 そこで、これからいくつかの記事に分けて、この大統領令の背景と内容・影響などを解説する記事を書くことにしました。その作業を、ここでは便宜的に「解題」と呼んでおきます。この記事はその1本目で、まずは大統領令のタイトルを簡単に分析したあと、この大統領令が全体としてどのような認識枠組みで書かれているかを説明します。

1.タイトル

 そもそもこの大統領令は「ジェンダーイデオロギーの過激主義から女性たちを守り、連邦政府に生物学的な真実を取り戻す」という表題(タイトル)を持っています。しかし、これだけでは全く意味不明ですよね。特に謎なのが、「ジェンダーイデオロギー」という言葉です。また「生物学的な真実を取り戻す」というのもなにを指しているのか不明ですし、「ジェンダーイデオロギー」から女性を守るというのも、これだけでは理解が難しい表現です。ここではいったん、タイトルを3つの問いに分解しておきましょう。

 「ジェンダーイデオロギーとは何か?」、「女性を守る(あるいは女性が守られていない状態)とはどういうことか?」「生物学的な真実とは何か?」… これから執筆する解題の全体を通して、この3つの問いに対する答えに近づいていきたいと思います。

2.大統領令の依って立つ認識 

 とはいえ、いきなり具体的な内容の解説を始めても、見通しがなければ理解が難しいことも多いと思います。そこで、細かい解釈に先立って、現時点でわたしが理解する限りでの、この大統領令が依って立つ認識枠組みを提示しておきます。

大統領令の認識:1)社会はセックスの区別のみで成り立ってきた、2)「ジェンダー」を唱えるイデオロギーが、そうした社会の秩序を破壊している、3)そのせいで女性が危険にさらされている

 上の図にあるように、大統領令は大きく分けて3つの認識に立っています。
 第一に、人間社会は「セックス」の区別によって成り立ってきたということ。つまり、世の中の「性差」はすべて「セックス」すなわち「生物学的な雌雄」の別によって識別され、運用され、制度のなかに埋め込まれてきたということ。
 第二に、そうした「セックス」とは別に、困ったことに「性別」を言い表すための「ジェンダー」という概念を普及させてきた人々がおり、そのせいで「セックス」による一元的な性差の識別や運用を常としてきた社会秩序が壊されているということ。すなわち「ジェンダーイデオロギー」が社会を壊しているということ。
 第三に、そうしたイデオロギーがもっとも悪影響を与えるのは「生物学的女性」であるということ。
 以上3つの認識によって、先ほど紹介したタイトルが導かれます。「ジェンダーイデオロギーの過激主義から女性たちを守り、連邦政府に生物学的な真実を取り戻す」。
 このように説明される大統領令の認識枠組みが、具体的にどのような内容をもっているのか、これから解説します。そして、この大統領令がもつ背景や、考えうる危険な影響についても考察します。今後の「解題」を予告しておくと、次のようになります。

① 全体的な認識枠組み ② 「ジェンダー・イデオロギー」? ③ 精子と卵子の世界 ④ トランスジェンダーがもたらす「脅威」 ⑤ LGBTの子ども・若者への攻撃 ⑥ 「女性を守る」? ⑦ 「トランスジェンダーを絶滅させる」

 場合によってはいくつかの解題をまとめる可能性がありますが、だいたい7本に分ける予定です。いま、お読みいただいている記事が「解題①:全体的な認識枠組み」です。以降、はじめは背景としての「ジェンダーイデオロギー」について扱い、それから内容の具体的な解説に移ります。なお、詳しい方はご存じだと思いますが、「ジェンダーイデオロギー」を扱う解題②では「反ジェンダー運動」について扱うことになります。というわけで、初回はこれでおしまいです。