ゆと里スペース

いなくなってしまった仲間のことも思い出せるように。

「まずは現実を知ることから」(B&B書店)

トランスジェンダー入門』の発売から3週間が経ちました。この間多くの方に手に取っていただき、ありがとうございます。ただ、初版があっという間にはなくなってしまったため、在庫僅少状態が続いています。早く2刷・3刷が行き届くとよいのですが。

トランスジェンダー入門』の刊行記念イベント、2つ目が3日後に迫っています。

bookandbeer.com


・8月10日(木)19:30~21:30
・下北沢の本屋B&Bさんにて。
・認定NPO法人ReBit代表理事である藥師実芳さんとの対談です。
・テーマは「まずは現実を知ることから」
・会場参加あり+オンラインあり。アーカイブ動画もあります。
・来店参加だと2,750円、オンラインだと1650円です。

 上記の通り、やや高額です。そのため参加してくださる方には申し訳ないのですが、薬師さんとはずっと一度お話しをしてみたいという思いがあり、わたし個人としてはいつになくエンジンがかかっています。刊行されたら薬師さんとぜひイベントをしたいと、出版前から集英社の編集さんにはお願いをしており、今回こうして実現しました。

 ReBitさんは2009年の設立。LGBTQに関する教育・啓発のみならず、キャリア支援や様々な調査の実施など、多岐にわたる活動をされています。例えば、今年の3月に公開されたこちらの調査報告「LGBTQ医療福祉調査2023」などは、時間の関係で『トランスジェンダー入門』には反映できなかったのですが(校正作業の最終版でした…)、非常に重要なデータがたくさん集まっています。

rebitlgbt.org

 今回のイベントは「まずは現実を知ることから」というテーマに設定しました。わざわざこのようなテーマを掲げているのは、現実を知りもしない人たちが、トランスジンダーについて誤った/誤解を招く/偏見に満ちた/差別的なことを言いふらす時代になっているからです。それも、ここ数年で急激に、です。
 もう、時計の針を戻すことはできません。だったら、改めて現実を知り、皆さんと一緒にトランスの人たちの状況を考えることから、始めるしかありません。だからこのイベントを企画しました。「まずは現実を知ることから」。
 『トランスジェンダー入門』には、多くのデータを引用しました。3章「差別」の章では、国内外のデータを、その簡単な解釈と共に提示しています。ReBitの薬師さんは、そのデータのなかに隠れている、LGBTQそしてトランスジェンダーの人たちの現実をよくご存じです。そして、ときに非常に厳しいそうした現実を生み出してしまうような、社会の構造についても、鋭い理解をお持ちです。今回の対談では、わたしと薬師さんで、そうした社会構造の偏りも含めて、存分に話していこうと思います。
 加えて、最近ReBitさんが達成したクラファンについても、当日は詳しくお伺いしたいと思っています。LGBTQであることで福祉を利用しづらい、LGBTQであることに加えて、精神障害発達障害である/と共に生きていることで、困難の質が変わる。そうしたLGBTQそしてトランスジェンダーのコミュニティの現実と向き合い、状況を変えるための取り組みにReBitさんは従事しておられます。その活動を支える、現状認識や思いについても、当日はぜひ伺いたいです。

camp-fire.jp

 先日、代官山蔦屋書店に李琴峰さんをお迎えして、著者2人と鼎談をしたときは『トランスジェンダー入門』という書籍の出版そのものについての話がけっこうな比重を占めていました。今回はすこし違います。今回は、書籍そのものについての話ではなく、私たちが変えていきたいと思っている現実そのものの話をします。これからも、何件も『トランスジェンダー入門』関連のイベントが予定されていますが、薬師さんとの対談は、おそらく他のどこでもできないようなバッキバキのトランスの話ができると思っています。なぜなら、わたしと薬師さんだからです(その意味はご参加いただければすぐに分かります)。

 当日は、福祉・医療、教育、就労といった、生きていくうえで避けられない、そしてとても重要な各領域において、どのようにトランスの人々への排除が構造的に作用しているか、そしてそれがどのようなデータに現われているか、といったような話しをしようと思います。もちろん、ReBitの薬師さんですから、単に抽象的な話だけには終始しません。しかし私たちは、社会構造の話をすることをためらいません。変わらなければならない現実が、そこに確かにあるからです。

 なお、今回のイベントとは直接は関わらないのですが、本屋B&Bさんは、わたしにとって、そして『トランスジェンダー入門』という著作の成り立ちにとって、実は思い出深い場所でもあります。というのも、『トランスジェンダー入門』の共著者である周司あきらさんと知り合ったのは、このB&Bのイベントだったからです。昨年の2月、周司さんの『トランス男性による トランスジェンダー男性学』(大月書店)の刊行記念イベントが本屋B&Bさんで開催されることになり、書店員さんの取り計らいで、対談相手にわたしをお呼びいただきました。

bookandbeer.com

ジェンダーアイデンティティが分かりません!」という(ふざけた/オマージュ込みの)テーマで、本当に楽しい時間を過ごしました。周司さんと初めて話したのが、このイベントの打ち合わせでした。その後、わたしの『トランスジェンダー問題』の翻訳にあたってもご助力をいただき、そのプロセスで「やっぱりこういうトランスの入門書が必要だよね」という流れで生まれたのが、『トランスジェンダー入門』でした。2月に初めて知り合ってから、8か月後には執筆が始まり、10か月後には原稿ができていました。B&Bのイベント担当さんには、私たちを出会わせてくださったことに感謝申し上げたいです。いただいたご縁がこうして新書になり、そしてまた、B&Bさんでイベントをすることができました。※今回のイベントは周司あきらさんは参加しません。

 最後に個人的な思い出話になってしまいました。皆さんと10日お会いできることを楽しみにしています。