ゆと里スペース

いなくなってしまった仲間のことも思い出せるように。

トランスヘイト言説を振り返る(wezzy)

トランスジェンダー入門』の発売から、来週で2カ月になります。この間、ずっと勢いも衰えることなく書店さんでも手に取っていただいてるということで、著者としては安心しています。朝日新聞にも載っていましたが、4刷で2万部弱が出ています。

 刊行記念イベント5つ目が明日に迫っています。場所はwezzyさん。テーマは「トランスヘイト言説を振り返る」。能川元一さん、堀あきこさん、松岡宗嗣さんの3人によるレクチャーに加えて、わたしを含む4人での討議になります。
➤ 申し込みは以下より


wezz-y.com

・9月8日(金)19:00~21:00
・オンラインのみ。
アーカイブ配信あり。視聴期限は9/29。
・書籍付きチケットは完売。オンライン参加 ➤ 990円。

 さて『トランスジェンダー入門』では、ここ数年日本国内でも激化しているヘイト言説については扱いませんでした。ヘイト言説によって自分たちの語るべきことを制約されるのは不本意ですし、それに応答するはるか手前のところで、基礎的な情報を書籍にまとめる必要があると判断したからです。

 今回のイベントでは、そうしてスルーすることになった「トランスヘイト」言説を正面から扱います。この5年ほどで、日本におけるトランスヘイト言説の担い手は広く拡大しましたが、その発端やヘイト拡散の経緯について知らないという方は多いと思います。そのため、今回のイベントは「トランスヘイト言説を振り返る」としました。現在進行形で拡大・拡散しつつあるヘイトの現状があるからこそ、その過去にもう一度目を向け、どのような対抗軸が必要であり、また可能であるかを探ろうと思います。

 堀あきこさんからは、いわゆる「フェミニズムにおけるトランス排除」問題を論じていただきます。「女性」という立場からトランスの人々に集中的に投げつけられ続けるヘイト言説がどのような装いをしており、どのような点で問題性を含むのか、お話しいただく予定です。能川元一さんからは、右派・保守系論壇の分析を中心に、右派に流通するトランスヘイト言説がこの1年でどのような質的変貌を遂げたかを詳細に論じていただきます。これまで女性の健康や権利のこと、ましてやトランスのことなど一切関心を寄せていなかった右派論壇が、「女性の安全」なるタームをフックとして「女性の味方」面をしているというおぞましい現在に至るまでの経緯において、どのような言説の輸入・交換があったのか、わたしも高い関心を持っています。他方で松岡宗嗣さんからは、LGBT理解増進法(2023)が成立するまでの経緯をひとつの軸に、国政・地方政治両面におけるトランスバッシングの波、そして圧力を論じていただきます。理解増進法は、2021年にも国会に上梓される寸前までいきましたが、自民党内の反対により廃案になりました。それが2023年に再び取り沙汰されたとき、その内容はより酷いものとなり、国会審議の期間・過程では、目を疑うレベルのヘイト言説が政治家の口からも繰り返し飛び出しました。許しがたいこうした過去を記憶し、現在の状況を理解するためにも、松岡さんからのまとめは非常に有益なものとなるはずです。

 なお、お三方からの報告のあと、わたし(高井)からも短いレクチャーを行います。「素朴な疑問は存在しない~トランスヘイト言説に触れたら~」という題で、トランスの人々の生活や現実に関する「素朴な疑問」を連発することが、どのようにしてヘイト(憎悪)の扇動や拡散としての機能を持つのか、そしてそうしたヘイト的な「疑問」に触れたとき、どのような対応が望ましいのかといったことを論じます。普段わたしはトランスヘイト言説そのものを相手取る機会が少ないのですが、いい加減に言いたいことも溜まっているので、明日は言うべきことをはっきり言わせていただきます。

 以上が全体の予告(?)です。イベントではヘイト言説が多く引用されるため、皆さんには心身の安全と安寧を守っていただくことを最優先としていただきたいのですが、重要なイベントになることは確かです。皆さまのご参加をお待ちしています。

 最後になりましたが、このイベントはショーン・フェイ『トランスジェンダー問題』(拙訳:明石書店2022年)の翻訳刊行からまもなく1年を記念するイベントでもあります。『トランスジェンダー入門』を通して、トランスの人々を取り巻く社会・経済・法・政治の状況について基礎的な知識を得ることができたら、ぜひ『トランスジェンダー問題』へと歩みを進めてほしいと願っています。トランスの人々を苦しめている諸問題については『トランスジェンダー入門』で簡単に論じましたが、そうした ”問題” は実のところ、トランスではない人も含む、多くの人々を苦しめている問題と同じ根っこを持っています。だったら、共に連帯して世界を変える以外に道はありません。「トランスジェンダー」という集団に対して、良くも悪くも注目が集まる現在だからこそ、「議論は正義のために」という『トランスジェンダー問題』の翻訳副題が、いま改めて想起されて欲しいと願います。