ゆと里スペース

いなくなってしまった仲間のことも思い出せるように。

『ホワイト・フェミニズムを解体する』と『トランスジェンダー問題』合同イベントお知らせ

 明後日2月5日に Readin' Writin BOOK STORE さんの主催で、わたしの訳した『トランスジェンダー問題』と、カイラ・シュラーさん著『ホワイト・フェミニズムを解体する』の2冊をとりあげたイベントが開催されます。わたしと、後者の監訳者である飯野由里子さんのふたりで、2冊の魅力を語ったり、それらを日本でどのように読むべきか話し合ったりする予定です。先ほどイベントの打合せをしてきましたが、とっても楽しいイベントになりそうです。以下より申し込みができます。

https://readinwritin230205.peatix.com/

 ちなみにこれは、Readin' Writin BOOK STOREで展開中の「明石書店フェア」の一環とのことです。明石書店が果たしてきた役割の大きさを想いつつ、実店舗でのフェアを拝見するのも楽しみです。

 さて、『トランスジェンダー問題』の第7章はフェミニズムトランスジェンダーの関係について扱っており、『ホワイト・フェミニズムを解体する』も第6章で同じテーマに集中的に取り組んでいます。特に後者の方は、アメリカのフェミニズム史においてよく知られている、トランス女性サンディ・ストーンに対する暴力的な非難・攻撃と、逆にストーンと共に歩んだレズビアンフェミニストたちの歴史について、比較的詳しく扱っているので、関心がある方には非常にお勧めです。すでに日本語で読める情報源だと、山田さんの以下の記事で少し触れられています。

wezz-y.com

 イベント当日は、このフェミニズムトランスジェンダー(の存在・政治学)のあいだの歴史的な関係や、現在の状況について、2冊の本をベースに話すところから始めようと思います。その後、国家暴力や人種差別とフェミニズムについて、また医療アクセスや障害の政治についても、議論を進めていく予定です。

 対談相手の飯野さんは、わたしが大学に入学した初年度(09年)に、障害学のゼミでお世話になった教員のひとりです。平日の夜、東京大学駒場第Ⅱキャンパスまでキャンパス間を歩いて移動し、ピカピカの研究所でゼミに出ていました。昨日のことのように覚えています。「全盲ろうの東大教授」として有名になった福島智さんや、『障害とは何か』を出版したばかりの星加良司さんが集う、今振り返っても贅沢なゼミでした。

 わたしはその後すぐ、2年次のはじめには、駒場キャンパスを離れて本郷へと拠点を移し、哲学研究に本格的に打ち込んでしまうのですが、この障害学のゼミで学んだ「障害の社会モデル」の衝撃と、フェミニストである飯野さんとの出会いは、わたしの存在にその後も深いところで影響を与え続けていると感じます。

 上記の経緯により、ゼミで知り合った飯野さんとの個人的な親交はいちど10年近く途絶えたのですが、いろいろなきっかけにより数年前から再び繋がりを得ることができ、今回こうして2冊の本の「訳者として」イベントで相まみえることになりました。14年前のわたしに、言ってあげたい。よくそのゼミを選んだね、大正解だよって。

 飯野さんは、ふぇみ・ゼミの運営委員でもあります。インターセクショナル・フェミニズムを日本に具体化する、次の世代のフェミニストを育てる、妥協なくフェミニズムを実践する。わたしも寄付者としてに過ぎませんが、ここ数年ふぇみ・ゼミと関わりをもち、また学びを得ています。明後日のイベントでは、ふぇみ・ゼミのことも聞けたらいいな。

 ちなみに『ホワイト・フェミニズムを解体する』は発売して間もないですから、未読の方も多いと思います。詳しい内容紹介をする機会ではありませんが、どのような本なのか、なぜ重要なのか、まだお読みでない方にもイベントではお伝えできるよう頑張ります。なお、わたしなりの視点からになりますが、書籍紹介も書いています。

yutorispace.hatenablog.com

 最後に、残念なお知らせです。イベントでのUDトーク(字幕)配信をお願いしていましたが、諸事情により都合がつかず、今回のイベントは音声での会話・対談が聞き取れる方のみを対象としたものとなりました。優生思想についての議論も2冊に共通しているうえ、障害学を専門の一つとする飯野さんとのイベントなので、ぜひUDトークを入れていただきたかったのですが、こうした結果になり少し悲しいです。

 イベントの実施にあたり、誰かが負担を背負い過ぎたり、企画してくださる書店さんが赤字になったりすることはもちろん避けるべきなのですが、マイノリティの権利回復や社会正義を取り扱うこうしたイベントだからこそ、その「デフォルト」にすでに含まれた差別や偏りは、できるだけ減らしていけるよう、関係する皆さんとはこれからもできる範囲で交渉したいと思います。

 それでは、明後日にお会いしましょう。